人手不足倒産が2026年4〜9月に240件。一人の退職で仕事を止めないための引継ぎ・代替担当の決め方
人手不足への備えは、求人を出すことだけではありません。誰かが退職したり長く休んだりしたときに、どの仕事が止まり、誰が代われるかを確認することも必要です。引継ぎは、担当者の業務を均等に書き残すより、止まると影響が大きい工程から進めます。
この記事は、現場責任者や熟練社員に判断が集中している会社に向けて、事業を続けるための引継ぎの優先順位を整理します。技能教育の全体設計ではなく、欠員が出たときに守る仕事と、無理をせず縮小する仕事を決めることが主題です。
倒産の数字は、社員一人の退職リスクを表すものではない
民間調査会社の東京商工リサーチによると、2026年度上半期、つまり4月から9月の人手不足関連倒産は240件で、過去最多となりました。このうち人件費高騰が130件、従業員退職が67件とされています。対象は負債1,000万円以上の全国企業倒産であり、全ての廃業や経営難を網羅する数字ではありません。
この統計から、「社員が一人辞めると倒産する」「同じ業種の会社は同じ確率で危ない」とは言えません。会社の財務、受注、技能や設備の状態は異なり、数字だけで個社の見通しを決められないからです。
編集部の見方として、採用ができない場合だけでなく、在籍者が抜けた場合にも事業を維持できるかを点検する材料になります。特に、売上をつくる作業、顧客との調整、安全に関わる判断を一人がまとめて担当している場合は、人数表だけでは代替可能性が分かりません。
賃上げの原資や資金繰りの検討と、業務の引継ぎは別の対応です。この記事では、金銭条件だけで解決しない「特定の人がいないと動かない仕事」に範囲を絞ります。
公的統計の離職率13.7%と、倒産件数を混同しない
厚生労働省が2026年8月31日に公表した「令和7年雇用動向調査」では、2025年の離職率は13.7%、前年より0.5ポイント低下しました。全国の主要産業で常用労働者5人以上を雇用する事業所を対象とする調査で、一般労働者の離職率は11.4%、パートタイム労働者は19.9%です。
先の240件は東京商工リサーチの民間倒産統計であり、この公的な離職率とは対象も期間も異なります。全国の離職率が下がっていても、自社の特定工程を代替できるとは限りません。反対に、倒産件数の増加だけから離職者全体が増えたとも言えません。引継ぎの優先順位は平均率ではなく、自社の業務依存で決めます。
人ではなく、止まる工程を一つずつ書き出す
最初に作るのは、人の評価表ではなく、業務の依存関係の一覧です。「この人は何でもできる」という評価を、具体的な工程と判断へ分けます。本人を責めたり、代わりがいないことを理由に休みを取りにくくしたりするための作業ではありません。
たとえば製造現場を想定すると、機械の通常運転は複数人ができても、品種を変える段取り、異常の切り分け、顧客への納期回答は特定の人しかできない場合があります。この想定では、「製造担当の代替者がいる」とだけ記録しても、止まる部分を見落とします。
運送会社なら、運転できることと、配車を組み直せることは別です。建設会社なら、作業を担えることと、元請との調整や必要な確認を進められることも別になります。業務名を大きくまとめず、不在時に誰が何を判断するかまで分けて記録します。
現場責任者には、「明日から担当者が不在なら、最初に誰へ電話しますか」「その人も不在なら、どの仕事を止めますか」と聞きます。答えが人名だけで終わる場合は、電話で何を確認するのかを続けて質問します。そこに記録すべき判断や情報が隠れています。
優先順位は、影響・代替・準備時間で決める
引継ぎを急ぐ仕事は、作業量が多い仕事とは限りません。止まった場合の影響が大きく、代わりにできる人がおらず、できるようになるまで時間がかかる仕事を優先します。これを点数化するかどうかより、判断の理由を揃えることが先です。
安全や法令上の資格・権限が関係する仕事は、経験が近い人へそのまま任せてよいとは限りません。必要な資格や教育、承認権限を確認し、条件を満たさない場合は、代替者を決めたことにしないでください。誰かを配置することと、安全に実施できることは違います。
納期への影響が大きい仕事でも、一時的な調整が可能なら、顧客と相談する窓口や期限を先に決める選択肢があります。逆に、短い作業でも設備を動かすために不可欠で、代替者の育成が難しいものは、先に対策を考える対象になります。
内閣府の事業継続の入門資料でも、重要な業務を絞り、継続の妨げになる資源へ重点的に対応する考え方が示されています。これは災害への備えを扱う資料です。本稿では、その優先順位の考え方を、平常時の欠員に備える業務整理へ応用しています。
優先する仕事が決まったら、記録を作る人だけでなく、説明を受ける人と確認する責任者を決めます。熟練社員に「手が空いたら全部書いて」と依頼する方法では、通常業務との順番が付かず、重要な引継ぎほど後回しになりかねません。
下の判断票は、現場責任者が止まる工程ごとに一枚作り、経営者が優先順位と欠員時の方針を決めるために使います。代替候補の名前だけでなく、資格・教育・権限と習得確認日を記入してください。
最初の棚卸しは、六つの項目で十分
全社の詳細マニュアルを作る前に、重要な工程だけについて、次の六つを一枚にまとめます。確認できない欄は、代替できるとみなさず未確認として扱います。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 業務と止まる条件 | どの作業・判断が、どの不在条件で止まるかを書きます。 |
| 影響する相手 | 顧客、納期、次工程などへの影響を具体化します。 |
| 主担当と代替者 | 単に経験がある人と、実行できる人を分けます。 |
| 必要な条件 | 資格、教育、承認権限、利用する情報を確認します。 |
| 手順の所在 | 最新の手順と記録がどこにあるかを残します。 |
| 未完了と次の対応 | 誰が何を確認し、いつ判断するかを決めます。 |
「手順の所在」には、ファイル名だけでなく、現場で取り出せる場所かも含めて確認します。事務所のパソコンにしかない、本人の個人端末にしかない、といった状態では、不在時に使えないことがあります。一方で、秘密情報や認証情報を誰でも見られる場所に広げることも避けます。必要なアクセス権は会社のルールで管理してください。
代替者欄には、引継ぎを受けただけなのか、実際に手順を確かめたのかを区別して残します。「資料を読んだ」と「必要な確認をしながら遂行できる」は同じではありません。責任者がどの段階まで確認したかを残すことで、忙しい日に過大な仕事を任せることを防ぎます。
引継ぎは「説明した」で終わらず、分岐を確かめる
重要な工程の引継ぎでは、通常時の手順に加え、いつ止めて誰へ相談するかを確認します。異常や例外への対応まで、受け手に推測させないことが要点です。
進め方の例は、主担当が手順と判断理由を説明する、受け手が自分の言葉で確認する、安全にできる範囲で作業や判断を確かめる、不明点を手順へ反映する、という順序です。試せない作業については、図面や記録を使って判断の流れを確認し、実施確認済みとは区別します。
質問は、「この表示なら次に何を確認するか」「普段と違う依頼が来たら、誰の判断を待つか」「ここから先を自己判断しない条件は何か」と具体的にします。熟練者の勘や経験を全て文章にできなくても、相談を始める条件は残せます。
引継ぎ時間を通常業務の隙間だけに押し込むと、教える側と受ける側の予定が合いません。対象を一つに絞り、責任者が時間を確保し、その間に延期する仕事も決めます。教育を増やすだけでなく、業務量を調整する判断が必要です。
代われない仕事は、縮小・延期の判断を先に置く
代替者が間に合わない場合に、全ての仕事を残った人へ振り分けることが唯一の対応ではありません。受注や納期の調整、作業範囲の縮小、条件を確認したうえでの外部連携などを検討し、誰が判断するかを決めます。
経営者と現場責任者で、「必ず維持する業務」「条件を変えて続ける業務」「安全や品質の条件が揃わなければ止める業務」を分けてください。顧客へ伝える必要がある場合は、現場担当者に交渉まで一任せず、会社として説明する責任者を置きます。
最後に、重要工程の主担当が一日不在という想定で、情報と連絡先を確認します。これは実際に危険な作業を代替させる訓練ではありません。必要な手順が見つかるか、承認者に連絡できるか、止める判断を共有できるかを机上で確かめる方法です。
採用は続けながら、採れるまでの間に会社がどこまで仕事を引き受けられるかも決める。その両方を用意しておけば、人が足りないという一つの言葉から、具体的な経営判断へ進めます。
この記事を読んだ後に行うこと
現場責任者が、担当者不在で止まる工程を一覧にし、安全・資格・納期への影響と代替者の有無を書きます。経営者は、引継ぎを先に行う工程、外部へ相談する工程、欠員時には縮小する仕事を決めてください。成果物は優先工程ごとの「代替者・必要な権限や教育・習得確認日」の表です。引継ぎ資料を置いただけでは完了にせず、代替者が安全に判断できるかを確認します。
出典・確認日
厚生労働省「令和7(2025)年 雇用動向調査」報道用発表資料(2026年8月31日)。常用労働者5人以上事業所、2025年の離職率13.7%、一般労働者11.4%、パートタイム労働者19.9%。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-2/dl/siryo.pdf
東京商工リサーチ「2026年度上半期(4〜9月)全国企業倒産状況」(2026年10月8日公表)。人手不足関連倒産240件、人件費高騰130件、従業員退職67件と調査対象を参照。https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1203308_1610.html
東京商工リサーチ「人手不足」関連倒産調査(2026年10月5日公表)。人手不足を扱う関連調査。本文の数値は上記10月8日資料で確認。https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1203295_1527.html
内閣府「事業継続 初めての方へ」。重要業務と制約となる資源の整理を参照。2009年のガイドライン第二版を紹介する入門資料で、法令の現行要件の根拠としては使用していません。https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/hajimete.html
確認・更新日:2026年11月1日。引継ぎの手順は編集部の実務提案です。統計から個社の倒産確率や退職の影響を推計するものではありません。資格・安全・契約上の条件は個別に確認してください。
著者:Unitas Pass編集部
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