カスハラ・就活セクハラ対策が義務化。相談窓口と代替担当を決め、現場・応募者のSOSを受け止める
カスハラと就活セクハラへの対策は、注意書きを掲示するだけでは回りません。従業員と応募者がそれぞれ誰に連絡できるか、その担当者が不在、あるいは当事者だった場合にどうするかまで決める必要があります。
専任人事がいない会社でも、相談先、引継ぎ先、記録の方法を具体化することはできます。この記事では、現場責任者が採用や顧客対応も兼ねる会社に向けて、相談を個人任せにしない運用を整理します。
2026年10月から、全事業主に防止措置が義務化
厚生労働省は、2026年10月1日からカスタマーハラスメントと求職者等へのセクシュアルハラスメントに関する防止措置が、全ての事業主に義務付けられたと案内しています。会社の規模が小さいことや、人事部がないことだけで対象から外れるものではありません。
カスタマーハラスメントは、顧客や取引先等の言動が社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害することなどの要素を踏まえて考えます。単に対応が難しい苦情や、会社にとって都合の悪い要望を全てカスハラと呼ぶものではありません。
厚生労働省の指針では、障害のある人からの合理的配慮の求め自体はカスハラに当たらないとされています。顧客の言い分を最初から排除する仕組みではなく、正当な申し出への対応と、従業員の安全や就業環境を守る対応を両立させる必要があります。
就活セクハラの対策は、採用面接だけを見ればよいわけではありません。職場見学やインターンシップなど、求職者等と接する場面を含めて、自社の連絡手段や接し方を確認します。具体的な適用範囲や必要な措置は、公的な指針と照合してください。
相談があった企業は27.9%。自社の「相談ゼロ」をどう読むか
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は27.9%でした。企業調査は2023年12月に全国の従業員30人以上の企業・団体を対象に実施され、この設問の有効回答は7,775件です。全業種をまとめた企業側の回答であり、小規模事業者だけの数値ではありません。2025年8月の訂正版概要の数値を参照しています。
これは従業員の被害率でも、2026年の発生率でもありません。また、相談件数は、被害の有無だけでなく窓口の認知や相談のしやすさにも左右されます。自社の相談がゼロでも、安全の証明とはせず、現場から窓口へ連絡できるかを確かめる材料にしてください。
従業員と応募者では、相談しづらい相手が違う
従業員向けの窓口を置いても、応募者がその存在を知らなければ利用できません。また、面接担当者自身について相談したい場合に、面接担当者だけを連絡先にしていては経路が閉じてしまいます。
従業員には、顧客対応中に困ったときの連絡先と、後から相談できる窓口の両方を示します。配送先、工事現場、訪問サービスなど、事務所から離れて働く人がいる場合は、その場で連絡できる方法かを確かめます。社内の掲示板に電話番号があるだけで、現場から利用できると決めつけないことです。
応募者には、面接日程の案内や見学案内の中で、採用担当者以外にも相談できる連絡先を知らせます。名称は分かりやすくし、「採用・見学中の対応に関する相談」といった入口を設ける方法が考えられます。ここでの名称や配置は編集部の運用提案であり、法令で定められた固定書式ではありません。
窓口を完全に別部署へ分ける余裕がない会社なら、役割を分けます。通常の受付担当と、その担当者に相談しにくい場合の代替責任者を決め、両方の連絡方法を示してください。社長が採用担当を兼ねる場合など、社内だけで独立した経路を設けにくいときは、外部相談窓口等の活用も検討する論点になります。
対応マニュアルには、相談窓口からの引継ぎ先まで書く
窓口は、相談を受けた人がその場で全ての事実や法的評価を決める場所ではありません。まず安全上の緊急性と、今すぐ必要な支援を確認し、その後の事実確認や対応を誰へ引き継ぐかを決めます。
初回の聞き取りでは、「いつ、どこで、誰との間で、何があったか」「現在も同じ状況が続いているか」「今、業務や面接に戻るうえで困っていることは何か」を確認します。細部を無理に一度で話してもらおうとせず、本人が説明できた範囲と、未確認の部分を分けて記録します。
従業員が顧客から離れられない、危険を感じているといった場合には、安全確保を優先する対応が必要です。現場の担当者に「取引先だから我慢して収めて」と任せる運用にはしません。状況に応じて責任者への交代や関係機関への相談などを判断できるよう、社内の判断者を決めておきます。
一方、申し出の内容を確認する前に、相手へ一方的な断定を伝えることも避けます。相談を受け止めることと、事実認定を終えることは別です。関係者それぞれから必要な情報を確認し、記録がある場合はその所在を押さえます。
下の連絡表は、経営者が担当者と代替先を指名し、採用担当者と現場責任者が案内を整えるための記入用シートです。個人情報を含む内部保管版と、従業員・応募者へ知らせる窓口案内は分けてください。
最初に揃えるのは、六つの運用項目
規程の文章を整える作業と並行して、実際に相談が来たときの動きを確認します。次の六つは、兼務担当者が責任者と打ち合わせるための確認項目です。これだけで法定措置が全て満たされるという意味ではありません。
| 運用項目 | 決めておく内容 |
|---|---|
| 相談の入口 | 従業員と応募者それぞれに、連絡方法を示します。 |
| 代替連絡先 | 担当者が不在・当事者の場合の受付先を決めます。 |
| 緊急時の判断者 | 安全確保や対応交代を判断する責任者を決めます。 |
| 記録の範囲 | 聞いた事実、未確認事項、本人の希望を分けて残します。 |
| 情報の共有先 | 対応に必要な人と、保管場所を限定します。 |
| その後の連絡 | 対応の進め方と、次に連絡する担当者を知らせます。 |
相談内容を、現場の全体チャットや誰でも見られる共有フォルダーへそのまま載せないようにします。相談者のプライバシーを守りながら必要な対応を進めるには、誰にどこまで共有するかの基準が要ります。相談や事実確認への協力を理由に、不利益な扱いをしないことも周知します。
受付担当が休みの日に連絡が来た場合を想定し、代替担当が記録を受け取れるかも確かめます。個人の携帯だけに情報が残る運用では、引継ぎと情報管理の両方が難しくなります。会社が管理する連絡方法を基本に、担当者の不在時にも受け取れる仕組みを選びましょう。
採用担当者の連絡ルールを、場面ごとに点検する
応募者が断りにくい関係にあることを踏まえ、面接や見学以外の接点も確認します。担当者の善意や経験だけに任せず、会社として認める連絡手段と目的を揃えることが出発点です。
確認したいのは、個人のSNSや私用連絡先へ誘導していないか、選考と関係のない私的な誘いが生じないか、職場見学後の移動や会食などに曖昧な慣行がないか、という点です。全ての場面を一律に禁止するルールをこの記事から決めるのではなく、自社の接点を書き出してリスクを点検してください。
採用担当者へは、「この連絡は選考上必要か」「会社の記録に残せる方法か」「応募者が断った場合に不利益がないと分かるか」と問いかけます。通常の業務連絡と私的な働きかけの境界を、担当者ごとの感覚に任せないための質問です。
面接で何を質問するかという公正採用の論点と、相談窓口や接触方法の整備は別の確認です。質問集を直したから防止措置が完成した、という扱いにはしないようにしましょう。
試しに一件受けてみると、止まる場所が分かる
新しい窓口を案内する前に、責任者同士で相談を受けた想定の確認をします。「現場から連絡が来たが、店長は不在」「応募者が面接担当者について相談したい」という二つの場面で、次の連絡先を迷わず答えられるか試してください。
ここで確認するのは、被害の大小を競うことではなく、受付後の担当と記録の所在です。誰も引き取れない段階があれば、そこを直してから周知します。外部の専門家や都道府県労働局へ確認すべき事項も、未決定のまま担当者へ背負わせず整理しましょう。
周知後も、相談先の連絡先が変わったときには、応募者へ送る案内と現場への案内を一緒に更新します。採用担当者の交代時に古い宛先が残らないよう、募集原稿や見学案内のひな形を管理する人も決めておきます。窓口を新設した日だけでなく、担当変更時に点検する運用が必要です。
防止措置を設ければ離職が必ず減る、といった成果は約束できません。それでも、困ったときに連絡でき、会社が対応を引き受ける道筋を見えるようにすることは、従業員と応募者の双方に対する具体的な準備になります。
この記事を読んだ後に行うこと
経営者が通常の相談担当と、その担当者が不在・当事者の場合の代替責任者を指名します。採用担当者は応募者向け案内に、現場責任者は従業員向け案内に連絡先を載せてください。成果物は「誰へ・どう連絡し・誰が初動を判断するか」が分かる連絡表です。実際に連絡が届くかを担当者間で試し、当事者を通さない経路が使えない場合は外部窓口等を含めて見直します。
出典・確認日
- 厚生労働省「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書(概要版)」4・7ページ(2025年8月訂正版)。2023年12月企業調査、従業員30人以上、当該設問n=7,775、過去3年の顧客等からの著しい迷惑行為の相談あり27.9%。 https://www.mhlw.go.jp/content/11910000/001541313.pdf
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」。2026年10月1日の施行案内を参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/
- 厚生労働省「カスタマーハラスメント・求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策」詳細版リーフレット。義務化の対象と措置の説明を参照。https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662580.pdf
- 厚生労働省「カスタマーハラスメントに関して事業主が講ずべき措置等に関する指針」。定義や正当な申し出の扱いを参照。https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf
確認・更新日:2026年11月1日。窓口の運用例は編集部の提案です。個別の行為の法的評価や、必要な措置の充足は、公的窓口や専門家へ確認してください。
著者:Unitas Pass編集部
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