「106万円の壁」撤廃。パートの加入条件・手取り・勤務希望を確認し、無理のないシフトを組む
「106万円の壁」の賃金要件がなくなっても、扶養内パートを含む短時間労働者の社会保険加入が、勤務時間だけで決まるわけではありません。シフトを変える前に、会社が対象となる範囲、本人の働き方、雇用期間、学生の扱いを確認し、加入の判断と本人の勤務希望を分けて話すことが必要です。
この記事は、パートやアルバイトがいる現場職の会社で、採用とシフト調整を兼務する担当者に向けた整理です。飲食店の短時間スタッフ、工場の補助作業、配送拠点の仕分けなど、複数の勤務区分を持つ職場でも使える確認の順番を示します。
変わったのは賃金要件で、ほかの条件が消えたわけではない
厚生労働省は、短時間労働者の社会保険加入に関する、いわゆる年収106万円の壁となっていた賃金要件を2026年10月に撤廃したと案内しています。以前の案内にある月額賃金の条件を、そのまま加入判断に使い続けないようにしてください。
一方、日本年金機構の案内では、短時間労働者の加入について、対象となる事業所や週の所定労働時間、学生でないことなどの確認が示されています。「年収だけを見なくなった」ことと、「週20時間なら全ての会社で同じ扱いになる」ことは同じではありません。
まず、通常の労働者と比較する4分の3基準に該当するかを確認します。これは、所定労働時間と所定労働日数を通常の労働者と比較する基準です。それに該当しない短時間の働き方について、適用拡大の要件を確認します。会社が付けている「パート」「アルバイト」という名称だけでは判断できません。
制度説明は、社内で以前に作った資料から写すより、最新の年金機構の案内に日付を付けてまとめます。古い契約書の書式や募集原稿に、撤廃前の条件を前提とした説明が残っていないかも確認してください。
適用拡大の人数は推計。今月の加入実績ではない
厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方」は、2025年改正当時の試算として、企業規模要件の撤廃により70万人程度、最低賃金の引上げとそれに伴う賃金要件の撤廃によりさらに110万人程度と推計しています。段階的な適用拡大に関する推計であり、2026年10月の加入実績ではありません。
この規模の推計を、自社の対象者数や働き控えの解消率に置き換えることはできません。企業が準備するのは一律の勤務延長ではなく、誰がどの条件で対象になるかを説明できる名簿です。対象外と判断した人も、判断した時点と根拠を残せば、次の制度変更や契約変更時に確認し直せます。
対象者を探すときの四つの確認
加入対象かどうかを判定する際は、会社と本人の条件を混ぜずに整理します。以下は確認の入口を四つにまとめたもので、個別の判定をこの表だけで完結させるものではありません。
| 確認する条件 | 確認の仕方 |
|---|---|
| 会社がどの適用範囲に入るか | 厚生年金の被保険者数など、制度上の数え方を確認します。 |
| 本人の所定時間・日数はどうか | 4分の3基準と、短時間労働者の週20時間以上の要件を確認します。 |
| 雇用期間の見込みはどうか | 契約期間と更新の見込みを確認し、2か月を超える雇用の扱いを確かめます。 |
| 学生に関する扱いはどうか | 学生の要件と例外を、本人の状況に即して確認します。 |
2026年10月30日更新の日本年金機構の案内では、厚生年金の被保険者が51人以上の企業等が示されています。ここでいう人数は、店舗や部署の在籍者を何となく数えた数と同じとは限りません。法人全体での確認が必要な範囲も含め、給与担当者や年金事務所と照合します。
所定労働時間は、忙しかった週の実績だけでなく、雇用契約で定めている時間を確認します。ただし、契約と実際の働き方が食い違っている場合は、その違いを放置しないでください。形式上の時間だけを短くして加入を避けるのではなく、実態を説明できる資料を揃えて確認することが必要です。
学生についても、一律に対象外と決めつけないようにします。学校の種類や働き方などにより確認すべき点が異なるため、必要な事実を本人に確認し、制度上の扱いを照合します。勤務名簿に「学生」と書いてあることだけで確認を終えないようにしましょう。
手取りの説明と「どれだけ働きたいか」の相談を分ける
加入の要件を満たすかどうかは、本人が希望するかどうかだけで選べる問題ではありません。一方、今後の勤務時間や曜日については、業務上の必要性と本人の希望を話し合う必要があります。この二つを同じ質問にすると、説明が曖昧になります。
面談では、先に「現在の契約と働き方を確認し、社会保険の扱いを説明します」と目的を伝えます。その後に、「今後、どの曜日と時間帯なら無理なく勤務できますか」「勤務時間を変える場合に確認しておきたいことはありますか」と聞きます。
本人が生活上の事情を話したい場合は受け止めますが、家族の詳しい収入や私生活を一律に聞き出す面談にはしません。業務と制度の確認に必要な情報を整理し、家族の健康保険など別の確認先が関係する場合は、その窓口で確認してもらう内容を区別します。
人手が足りない時間帯に長く働いてもらいたい場合も、制度変更を理由に一方的なシフト変更を既定事項にしないことです。候補となる勤務パターン、担当する仕事、勤務先や時間帯の制約を先に提示すれば、本人も具体的な希望を伝えやすくなります。
下の記入用確認票は、給与担当者が加入判定の根拠を、シフト責任者が勤務希望と合意内容を残すために使います。「確認待ち」は対象外と同じ扱いにせず、確認先を記入してください。
手取りの説明は、他の「壁」と混ぜない
106万円の賃金要件、健康保険の被扶養者認定で扱われる130万円、税制上の基準、会社独自の家族手当は、別の仕組みです。「壁がなくなったので何も気にしなくてよい」と説明すると、本人が確認すべき論点を見落とします。
手取りの変化も、一律には言えません。勤務時間や賃金、加入する制度、本人の状況などによって変わるため、他のスタッフの例をそのまま当てはめず、給与担当者が前提を示した試算を用意します。まだ確定していない条件は、試算の条件として明示します。
たとえば説明用の用紙は、「現在の契約」「変更を検討する契約」「未確認の条件」の三つに分けられます。ここに根拠のない手取り額を埋める必要はありません。本人が比較したい項目と、誰が確認するかを先に揃えるだけでも、担当者間の行き違いを減らす助けになります。
社会保険への加入には負担だけでなく保障の側面もありますが、個人の将来給付を安易に約束しないようにします。会社からは制度の公的説明を案内し、本人の具体的な判断に必要な情報と、会社が決められる勤務条件を分けて提供してください。
契約・シフト・給与の三つを同じ内容に揃える
話し合った内容は、シフト表だけに反映せず、雇用条件と給与処理まで確認します。現場責任者は新しい時間で働いていると思い、給与担当者は従来の条件で処理している、といった行き違いを防ぐためです。
順番は、現在の条件を確認する、制度上の扱いを確認する、本人へ説明する、変更する条件を合意して記録する、必要な手続きと給与設定を確認する、です。加入が必要な場合の手続きを、本人との勤務希望の調整が長引いていることを理由に曖昧にしないようにします。
兼務担当者の会社なら、対象者全員を一度に詳しく面談する前に、「判定に必要な資料が揃っている人」と「資料が不足している人」を分けると進めやすくなります。後者は、誰がいつまでに何を確認するかを書き出します。未確認を加入不要と同じ欄に入れないことが要点です。
変更後には、契約内容と実際のシフトが一致しているかを確認します。繁忙期に勤務が継続して増えているなどの変化があれば、最初の判断を固定したままにせず、実態を踏まえて再確認してください。
担当者が一人の職場では、説明内容を別の責任者にも確認してもらいます。本人からの質問にその場で答えられなければ、推測で回答せず、確認先と回答予定を伝えて持ち帰ります。面談が終わったことではなく、未確認の質問を解消したことを区切りにしてください。
迷うケースは、結論ではなく資料を揃えて相談する
事業所の適用範囲や働き方の判定で迷ったら、年金事務所などへ確認します。「この人は加入しなくてよいはず」という結論を持ち込むより、契約時間、雇用期間、更新見込み、実績との違いを整理して相談するほうが論点を特定できます。
シフトの都合だけで制度の扱いを決めず、制度の説明だけで本人の希望を決めつけない。この線引きができれば、社会保険の確認を、働き方を落ち着いて話す機会に変えられます。
この記事を読んだ後に行うこと
給与担当者が、週20時間の要件などを契約書と勤務実態で確認し、「加入対象・対象外・確認待ち」の名簿を作ります。シフト責任者は加入判定とは別に、本人の勤務希望と必要な時間帯を聞き取り、シフト設計に使います。経営者は会社負担も含めた費用と配置を確認し、合意できた勤務条件だけを契約・シフト・給与へ反映する順序を決めます。成果物は判定根拠、説明日、合意した変更内容を残した個別確認票です。
出典・確認日
- 厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第9 被用者保険の適用拡大」。2025年改正当時の試算として、企業規模要件撤廃で70万人程度、最低賃金引上げと賃金要件撤廃でさらに110万人程度という推計を参照。段階的な適用拡大の推計で、2026年10月の加入実績ではない。 https://www.mhlw.go.jp/stf/nenkin_shikumi_009.html
- 厚生労働省「年収の壁への対応」。2026年10月の賃金要件撤廃などを参照。https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
- 日本年金機構「短時間労働者の資格取得要件に関するQ&A」(2026年10月1日更新)。https://www.nenkin.go.jp/section/faq/kounen/tekiyoukakudai/tanjikan/shutokuyouken.html
- 日本年金機構「社会保険の適用拡大について」(2026年10月30日更新、従業員向け案内)。https://www.nenkin.go.jp/tokusetsu/tekiyokakudai_kojin.html
確認・更新日:2026年11月1日。一般的な制度説明と編集部による実務提案です。個別の適用、保険料や手続きは年金事務所などに確認してください。
著者:Unitas Pass編集部
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