トラック「適正原価」は段階導入を検討中。一便の費用を原価表にまとめ、運賃交渉の根拠をつくる
トラックの「適正原価」制度を見据えた準備は、将来の公表額を待つことではありません。自社の運行で、何に時間と費用がかかり、どこまで現在の請求に含まれているかを記録することから始められます。
この記事では、配車や営業を経営者が兼ねる運送会社に向け、制度の現段階と、運賃交渉の前に集めたい原価情報を分けて説明します。荷主向けの立派な営業資料を作る前に、社内の数字の出どころを揃えるための手順です。
段階導入は検討中。決まった日程として扱わない
2026年10月13日の国土交通大臣会見では、適正原価の制度について2028年6月までの施行に向けた説明があり、期間を活用して段階的な導入を検討する考えが示されました。10月19日には第4回の有識者検討会が開かれています。
2026年11月1日時点では、段階ごとの適用日や個社に適用する額が、このニュースだけですべて確定したわけではありません。「制度が始まれば、現在のすべての運賃が直ちに上がる」「会社が受け取る額が決まるので、給与も自動的に上がる」と説明するのは避けます。
経営者が分けておきたいのは、国が設計している制度、自社が必要とする原価、荷主と合意している取引条件の三つです。制度の進捗は公式資料で更新し、自社の原価は実績から把握し、取引条件は相手との協議で確認します。どれか一つで残りが決まると考えないことが出発点です。
8%引上げは2024年の標準的運賃。新制度の上昇率ではない
国土交通省は2024年3月22日、2020年告示の標準的運賃について、運賃水準を8%引き上げ、荷役の対価等も加算する新たな運賃を告示しました。これは国が公表した制度上の見直し幅です。2026年の適正原価の検討結果や、全運送会社が実際に得た値上げ率ではありません。国土交通省の公表資料
既存の標準的運賃を使う場合は、古い運賃表を参照していないか、車種・地域・距離または時間などの条件が対応しているかを確認します。「国が8%上げたから自社も一律8%」と結論を出さず、荷役など運賃と別に確認する料金と、自社の原価を照合してください。新制度の開始前でも、この資料確認と社内記録は進められます。
標準的運賃と、自社の採算額を区別する
国土交通省の「標準的運賃」は、現在の交渉で参照する制度です。新たな「適正原価」の制度設計と、同じ名称・同じ仕組みとして扱わないようにします。
関東運輸局の案内では、2024年告示の標準的運賃や、運賃以外の荷待ち・荷役などに関する料金の資料を確認できます。運ぶ対価と、付随する作業の対価を分けて見る際の参考になります。
ただし、資料にある額をそのまま自社の利益が確保できる価格とみなすことはできません。車両、距離、稼働、帰り荷、作業、地域など、仕事の条件が異なれば自社の負担も変わります。公表資料は共通の説明材料にし、自社がその条件で運ぶために必要な費用を別に示します。
最初に営業へ渡すのは、きれいな表よりも「今回の比較はどの便を、どの期間で見たものか」という前提です。前提が曖昧なまま平均単価を比較すると、仕事の条件差を値段の差と取り違えてしまいます。
一運行を追う単位を決める
記録は、配車表や日報など、すでに社内で使っている資料に紐づけます。新しい専用システムを入れる前に、同じ運行を誰でも追える番号や日付・便名の組み合わせを決める方法でも始められます。
対象は、一つの荷主、一つの定期便など、営業と配車が内容を説明できる範囲に絞ります。初回から全車両の精密な原価計算を目指すと、記録だけが増えて判断に使われないおそれがあります。まず取引条件を見直したい便から、必要な記録が取れるか試します。
走行距離だけでなく、出庫、到着、受付、作業開始、作業終了、帰庫など、時間が変わる区切りを確認します。時刻が分からない欄をゼロにせず「未確認」にすれば、次にどこを記録すればよいかが分かります。後から記憶で埋める場合は、実測値とは区別してください。
荷待ちの時間が長かったときは、運転者の責任と決めつけず、予約時刻、受付方法、荷物の準備状況などを確認します。記録の目的は人を責めることではなく、どの条件が運行の費用を変えているかを把握することです。
直接の費用と、共通の費用を混ぜない
燃料、高速道路、外注など、その運行に対応づけられる費用と、車両や事務所など複数の仕事にまたがる費用は、分けて整理します。共通費用をどう配分したかが分からなければ、後から数字を見直せないためです。
次の表は原価情報を集めるための社内用例です。法定の計算式や、どの会社にもそのまま当てはまる配賦基準ではありません。
| 集める情報 | 確認する資料・条件 |
|---|---|
| 運行の条件 | 車両、便、区間、運行日、往復・片道の範囲 |
| 時間の実績 | 出庫・帰庫、待機、荷役などの区切り |
| 直接の支出 | 燃料、高速道路、外注等の明細 |
| 人件費の扱い | 対象時間、手当、会社負担分を含む範囲 |
| 共通費用 | 車両や管理費等の配分方法と計算期間 |
| 現在の請求 | 運賃、別建て料金、含まれる作業の条件 |
燃料代を走行距離で配分するなど、簡便な方法を使うこと自体が問題ではありません。どの方法で計算したか、燃料価格や稼働条件が変わったら何を更新するかを残します。実際の会計処理や原価計算の設計は、経理担当や税理士等と確認してください。
特に、運転者の時間と車両の使用時間を同じものとして扱わないようにします。運転以外の確認・作業・待機があれば、その実態も把握する必要があります。長時間働くことで採算を合わせる前提を置かず、安全や労務上の条件を守れる運行を計算の出発点にします。
一便の原価確認シートの使い方
以下は実在企業の記録ではなく、社内で埋めるためのひな形です。便番号を共通に、時間と費用と契約を突合。欠測をゼロにせず、価格または作業条件の協議を決める。空欄には自社の資料で確認した値だけを書き、分からない箇所は「未確認」と残してください。
原価表から、荷主に聞く質問へ変える
原価を把握したら、すぐに合計額だけを相手へ示すのではなく、負担が増える条件を確認する質問に変えます。料金の見直しと、作業条件の変更の両方を協議できるためです。
たとえば「荷役時間が長い」なら、「どこまでが運送会社の担当か」「荷物の受渡し場所はどこか」「指定時刻に作業を始められない場合の連絡先は誰か」と聞きます。「走行距離が延びた」なら、変更の頻度、依頼が届く時点、追加区間を誰が承認するかを整理します。
この段階で、担当者が現場の口頭依頼を受けるだけになっている場合は、営業や運行管理へ戻す基準も決めます。運転者にその場で金額交渉まで任せる必要はありません。依頼内容と時刻を記録し、会社として条件を確認する窓口へ渡す流れにします。
請求に含む範囲が契約から読み取れないときは、未収だと即断せず、契約書・見積書・発注内容を照合します。費用が発生した事実と、相手がその費用を支払う条件に合意しているかは、分けて確認する必要があります。
制度の更新と、社内の更新を別々に予定する
制度の情報は、報道の見出しだけで更新せず、国土交通省の検討会や公表資料で確認します。一方、自社の原価情報は制度が動いた日だけでなく、契約更新や燃料・作業条件の変化に合わせて見直します。
小さな会社では、経営者一人が資料を抱え込むより、配車は時間、経理は支出、営業は契約条件を確認するなど、持っている情報に沿って担当を分けると進めやすくなります。最終判断者と、更新の締切も一緒に決めてください。
社員へ説明するときも、「制度で給料が上がる」と先に約束するのではなく、現在どの原価を把握し、どの条件を交渉し、いつ次の説明をするかを伝えます。見込みと決定を分けることが、賃金の話と制度の話を混同させないための準備です。
まず、見直したい一便について、配車表・日報・請求明細を並べてみてください。同じ運行の数字がつながらない部分が見つかれば、そこが次に整える記録です。
読んだ後に会社で決めること
経営者が対象の定期便を選び、配車担当が時間・距離、経理担当が支出と共通費の配分、営業担当が請求条件を同じ便番号で集めます。成果物は「現在の請求額/自社原価/含まれる作業/未確認事項」を並べた原価確認シートです。原価計算の担当がいなければ、まず経理と税理士に費用の範囲を確認します。
数字がつながれば、経営者が価格改定を申し入れるのか、作業条件の変更を協議するのかを決めます。費用や時間が未確認なら、推計だけで改定額を確定せず、次の運行で不足記録を取ります。新制度の適用額や段階日程を推測して見積書へ書かず、制度担当者を決めて公式更新と自社の採算判断を別々に管理してください。
出典と確認日
- 国土交通省「新たなトラックの標準的運賃を告示しました」(2024年3月22日)。2020年告示から運賃水準8%引上げ。資料を読む
- 国土交通省「国土交通大臣会見」(2026年10月13日)。資料を読む
- 国土交通省「トラック運送事業に係る適正原価に関する有識者検討会」第4回(2026年10月19日)。資料を読む
- 関東運輸局「標準的運賃告示制度」(2024年告示に関する案内)。資料を読む
- 確認日・更新日:2026年11月1日。記録や確認の手順は編集部の提案です。個別の料金・契約・労務については適用条件を確認してください。
著者:Unitas Pass編集部。Unitas Passは、現場職の会社の採用・定着・人事制度を支援する株式会社Unitasが運営しています。
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